山形地方裁判所 昭和37年(行)6号 決定 1964年8月25日
原告 加藤典甚
被告 山形県知事
訴訟代理人 吉沢久次郎 外五名
補助参加人 郷野竹志
主文
原告の提起にかかる昭和三七年(行)第六号行政処分無効確認の訴えにつき、被告を山形県知事から国に、請求の趣旨を「(一)、被告が昭和三七年七月二三日附達第二、三七七号を以て為した原告所有の別紙第一目録記載の土地につき、昭和二四年七月二日附自作農創設特別措置法第一六条の規定により、山形K第三、〇六六号売渡通知書を以て為した売渡処分は之を取消す旨の行政処分の無効なることを確認する。(二)、被告が昭和三七年七月二三日附達第二、三七八号を以て為した原告所有の別紙第二目録記載の土地につき、昭和二四年七月二日附自作農創設特別措置法第一六条の規定により、山形G第一七、二八六号売渡通知書を以て為した売渡処分は之を取消す旨の行政処分の無効なることを確認する。(三)、訴訟費用は被告の負担とする。」から「原告と被告国との間に原告が別紙第一、第二目録記載の土地の所有権を有することを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。」にそれぞれ変更することを許可する。
本件申立費用は被告の負担とする。
理由
原告は主文と同趣旨の決定を求める旨申立てたが、その理由とするところは、「申立人は昭和三七年(行)第六号行政処分無効確認事件において、山形県知事に対し、別紙第一、第二目録記載の土地の売渡処分の取消処分が無効であることを確認する旨の請求をしたが、訴提起の昭和三七年一〇月二二日にはすでにその同じ月の一日より新しい行政事件訴訟法が施行されており、同法第三六条により無効確認の訴は本件の場合提起できなくなつたのであり、山形県知事の答弁書にもその旨の指摘がなされていたのである。そこで、答弁書の趣旨に従い訴を変更し、売渡処分の取消処分により形式的に右土地の所有権を取得したかの如き外観のある国に対し、右取消処分が無効であることを前提として所有権確認を求めるため行政事件訴訟法第三八条第二一条により本申立に及ぶ次第である。」というにある。
よつて按ずるに、行政事件訴訟法第三八条第一項において、同法第三六条の無効等確認の訴えに同法第二一条を準用しているところの所以は、従来判例上行政処分の無効等確認の訴えが広く認められて来たのに対し、同法第三六条によつて右の如き訴えの原告適格を制限することになつたため、その制限に違反して提起された訴えの救済という見地から、これらの不適法な訴えを、同条にいう「現在の法律関係に関する訴え」に変更する途をひらいたところにあるものと解される。しかして同法第二一条第一項により訴えの変更が許可されるためには、同条所定の要件を具備しなければならないので、以下、本件訴えの変更許可の申立が同条所定の要件を具備するか否かにつき考察することとする。
まず、本件行政処分無効確認請求事件記録によれば、本件訴訟が未だ口頭弁論終結前であること並びに記録中の訴状及び訴えの変更許可申立書によれば、従来の行政処分無効確認請求と新たな所有権確認請求とはいずれも山形県知事のなした農地売渡処分の取消処分が無効であることを基盤とするものであることが認められるから、その請求の基礎には変更がないといわなければならない。
そこで、次に、訴えを変更することが相当であるか否かにつき検討するに、本件訴訟記録によれば、被告において答弁書をもつて既に原告の提起した従来の行政処分無効確認の訴えが不適法である旨指摘されていたにも拘らず若干の証拠調が施行されている事実が認められるが、右の如き事情は「口頭弁論の終結に至るまで」訴えの変更が可能であるとする前同条項の趣旨から考え、相当性の判断において考慮すべき事項でないといわなければならない。しかして、従来の原被告双方の事実上及び法律上の主張、証拠の提出、援用、認否を検討するときには、新たに被告となるべき国との間で所有権確認訴訟が係属することになつた場合において、従来の訴訟手続ならびに訴訟資料を利用する便宜があると認められるほか、訴えの変更を許すことにより、変更後の訴訟手続を著しく遅滞させるものとは認められないばかりか、新たに被告となるべき国の防禦にも著しい影響があるとは認められないので、本件申立のとおり訴えを変更することは相当であると考えられる。なお、右相当性の判断において、原告が故意又は重大な過失によつて、同法第三六条に違背して無効等確認の訴えを提起した場合を考慮すべきか否かについては、同法第三八条第一項の趣旨が前述の如くであること、同法第二一条第一項に同法第一五条第一項の如き明文がないこと及び同法第一五条は出訴期間の不遵守の救済を目的とする規定であることに鑑み、考慮すべき事項ではないと解すべきである。
以上のとおり、原告の本件訴えの変更許可の申立は、同法第二一条第一項の要件をいずれも具備しているのでその理由がある。よつてこれを許可することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 上田次郎 石垣光雄 西尾幸彦)
(別紙第一、二物件目録省略)